「Saint James Infirmary」は、アメリカのフォーク・ブルースの伝統から生まれたジャズ・スタンダードである。英国の古いバラッド「The Unfortunate Rake」にルーツを持つとされ、長い口承の歴史を経てアメリカで独自の形に発展した。1928年のルイ・アームストロングの録音が決定的な名演として知られ、クレジット上はドン・レッドマン(後の版では「ジョー・プリムローズ」名義)が作曲者とされている。
マイナー・キー(一般にDmまたはAm)で書かれた8小節の進行が基本構造で、12小節ブルースとは異なる独特の形式を持つ。シンプルながらも重厚なハーモニーが、恋人の死を嘆きつつ自らの葬列にジャズ・バンドを求めるという歌詞の世界観と見事に合致する。テンポは遅めのダージ(葬送曲)風からミディアム・スウィングまで幅広く解釈され、ニューオーリンズのジャズ・フューネラルの伝統とも深く結びついている。
ルイ・アームストロング・アンド・ヒズ・サヴォイ・ボールルーム・ファイヴによる1928年12月の録音は、ドラマティックなトランペット・ソロと味わい深いヴォーカルで不朽の名演となった。1933年にはキャブ・キャロウェイがベティ・ブープのアニメーション映画でこの曲を披露し、スウィング時代のヒットとなった。ボビー・ブルー・ブランドの1961年版(Two Steps from the Blues収録)も、ブルース・サイドからの名解釈として評価が高い。