「That's All」は、1952年にボブ・ヘイムズが作曲し、アラン・ブラントが作詞したバラードである。ヘイムズは俳優としても活動した多才なエンターテイナーで、この曲はシンプルながら深い情感をたたえた佳作として知られる。
形式は32小節のAABA。キーはE♭もしくはFで演奏されることが多い。A セクションでは穏やかなダイアトニック進行が続き、歌詞の飾らない誠実さと調和する。ブリッジではオクターヴの跳躍が繰り返されるが、音楽評論家アレック・ワイルダーが指摘したように、本来なら単調になりかねないこの手法が不思議と退屈にならない。全体を通じてメロディの温かさと自然な流れが際立ち、「最も飾り気のないラヴ・ソング」とも評される一曲である。
最初に録音したのはナット・キング・コール(1953年)だが、この曲を広く知らしめたのはボビー・ダーリンのアルバムThat's All(1959年)である。ジャズではベン・ウェブスター(1953年)やレスター・ヤングとオスカー・ピーターソンの共演盤(1955年)が名演として知られる。