「Prelude To A Kiss」は、1938年にデューク・エリントンが作曲したバラードの傑作である。エリントンは2000曲以上を生み出した20世紀最大の作曲家の一人であり、本曲はスウィング時代の絶頂期に、あえてダンスのテンポやティン・パン・アレー的な定型から離れ、クラシック音楽的な旋律美を追求した意欲作だ。
形式は32小節のAABA、オリジナル・キーはA♭メジャーだが、Cメジャーでも広く演奏される。最大の特徴はメロディの冒頭で半音階が下降していく大胆な動きで、セカンダリー・ドミナントや回避終止を多用した極めてクロマティックなハーモニーが全編を彩る。ブリッジ終わりの半音上行(G-G♯-A-A♯-B)がAセクション冒頭の下行(B-A♯-A-G♯-G)と鏡像関係にあるなど、緻密な音楽的構成が隠されている。
初録音はエリントン楽団による1938年8月の演奏で、アルト・サックスのジョニー・ホッジスがフィーチャーされている。ホッジスの甘美なビブラートと「滑り込む」ような奏法は、この曲の理想的な解釈として名高い。Ellington Indigos(1957年)での再録音も、ホッジスの円熟した名演が聴ける。