「One for My Baby (and One More for the Road)」は、1943年の映画The Sky's the Limitのためにハロルド・アーレンが作曲し、ジョニー・マーサーが作詞した「サルーン・ソング」の最高傑作である。映画ではフレッド・アステアが初演した。
通常の32小節を大きく超える58小節(一説に48小節)という異例の長さを持ち、アーレン自身が「テープワーム(サナダムシ)」と呼んだ放浪的な構造が特徴。キーはEbが標準だが、途中で転調する。深夜のバーで失恋の痛みをバーテンダーに語りかけるという設定が、親密で内省的なムードを生み出しており、ブルージーなリズムとともにジャズ・ヴォーカルの真髄を味わえる一曲だ。
この曲を自身のシグネチャー・ソングとしたのはフランク・シナトラで、特にアルバムFrank Sinatra Sings for Only the Lonely(1958年)での録音が決定的名演。ビリー・ホリデイのSongs for Distingué Lovers(1957年)での切実な歌唱も忘れがたい。