「モア・ザン・ユー・ノウ」は、1929年にヴィンセント・ユーマンスが作曲し、ビリー・ローズとエドワード・エリスキューが歌詞を手がけたバラードである。ブロードウェイ・ミュージカル『グレイト・デイ』の挿入歌として書かれたが、公演自体はわずか36回で打ち切りとなった。しかしこの曲は舞台の失敗をよそに広く愛され続け、スタンダードとして定着した。
キーはE♭メジャーで、32小節のAABA形式をとる。メロディは大きな跳躍音程と情感豊かなロングトーンを持ち、「あなたが思っている以上に愛している」という歌詞の切なさを雄弁に伝える。ユーマンスの旋律は「ティー・フォー・トゥー」同様、シンプルでありながら独特の洗練があり、ハーモニーはダイアトニックな進行にクロマティックなパッシング・コードが巧みに織り込まれている。バラードとして演奏されることが多いが、ミディアム・スウィングでも映える汎用性の高い一曲だ。
1929年のヘレン・モーガンとリビー・ホルマンの録音がオリジナル期の代表盤である。ジャズの分野ではビリー・ホリデイのヴォーカル版が名唱として名高く、ベニー・グッドマン・トリオの1936年の録音もスウィング時代の名演として知られる。1989年の映画『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』でミシェル・ファイファーが歌い、新しい世代にもこの曲を印象づけた。