「イッツ・ユー・オア・ノー・ワン」は、1948年にジュール・スタインが作曲し、サミー・カーンが作詞したナンバー。映画『洋上のロマンス(Romance on the High Seas)』のために書かれ、ドリス・デイの映画デビュー作を飾った楽曲の一つである。
32小節のAABA形式で、ハーモニーの動きが洗練されている点が特徴。ii-V進行を巧みに連鎖させながら、予想外の転調やクロマティックな経過和音を織り込んでおり、インプロヴィゼーションの素材として魅力的な構造を持つ。アップテンポのスウィングで演奏されることが多く、ビバップ期のミュージシャンにも好まれた。メロディは跳躍と順次進行のバランスが良く、リズミカルなフレージングが演奏者の腕の見せどころとなる。
ジャズにおける代表的な録音としては、チェット・ベイカーが1954年のアルバムで取り上げたヴァージョンが知られ、彼の繊細なトランペットと歌声が光る。またソニー・ロリンズをはじめとするハード・バップ期の奏者たちも、この曲のハーモニックな可能性を生かした力強い演奏を残している。