「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン」は、1933年に発表されたポピュラー・ソングで、作曲はハロルド・アーレン。もともと1932年のブロードウェイ劇『ザ・グレート・マグー』のために書かれたが、同作はわずか11公演で閉幕。翌年の映画『テイク・ア・チャンス』で広く知られるようになった。
32小節のAABA形式、原調はGメジャー。各Aセクション冒頭では半音階的に上行するベースラインが特徴的で、I-dim7-ii-V7という進行がスムーズに展開される。Aセクション後半にはリズム・チェンジ的なハーモニーが現れ、ブリッジではサブドミナント領域へ転じた後、五度圏進行で自然にトニックへ回帰する。メロディにはオクターヴの跳躍が含まれ、軽やかさとドラマティックさを兼ね備えている。テンポの幅が広く、ミディアム・スウィングからバラードまで対応できる柔軟な楽曲である。
代表的な録音としては、ナット・キング・コール・トリオの1943年の演奏が名高い。コールのピアノと甘い歌声が絶妙に絡み合う名演である。またエラ・フィッツジェラルドの1945年のヴァージョンも、彼女の卓越した解釈力を堪能できる一枚として広く親しまれている。