「ドント・イクスプレイン」は、ビリー・ホリデイと作詞家アーサー・ハーズォグ・Jr.が共作し、1944年にDeccaレーベルで初録音されたバラードである。ホリデイが自伝で語ったところによれば、最初の夫ジミー・モンローが襟に口紅をつけて帰宅した際の実体験がこの曲の着想の源であり、「風呂に入りなさい、説明はいらない」という彼女の言葉がそのままタイトルとなった。
32小節のバラードで、深い諦念と無条件の愛が交錯する歌詞を、ブルージーかつ親密なメロディが支える。ホリデイの歌唱ではテンポを極端に落とし、一語一語に感情を込めるスタイルが際立つ。コード進行はシンプルなii-V-I中心だが、メロディの跳躍が少なく語りかけるようなフレージングが特徴的で、歌い手の感情表現がそのまま楽曲の説得力となる。インストゥルメンタルでも、テーマの持つ静かな強さが演奏者の個性を引き出す名バラードである。
初録音は1944年11月8日、トゥーツ・カマラータ楽団との共演。ホリデイはその後もライヴで繰り返しこの曲を取り上げた。ヘレン・メリルが1954年のデビュー・アルバムHelen Merrillで、デクスター・ゴードンがサックスによるインストゥルメンタル版(1962年)で、それぞれ印象的なカヴァーを残している。